一、
銀杏返しに黒繻子(くろじゅす)かけて
泣いて別れたすみだ川
思い出します 観音さまの
秋の日暮れの鐘の声
(台詞)
「あゝそうだったわねえ、
あなたが二十歳(はたち)、
わたしが十七の時よ。
いつも清元のお稽古から帰って来ると、
あなたは竹谷(たけや)の渡し場で
待っていてくれたわねえ。
そして二人の姿が水に映るのを眺めながら
ニッコリ笑って淋しく別れた、
本当に儚(はかな)い恋だったわねえ」
二、
娘心の仲見世(なかみせ)歩く
春を待つ夜の歳(とし)の市
更けりゃ泣けます 今戸(いまど)の空に
幼馴染(おさななじみ)のお月様
(台詞)
「あれから私が芸者に出たものだから
あなたは逢ってくれないし、
いつも観音様へお詣りする度に、
廻り道してなつかしい隅田のほとりを
歩きながら一人で泣いていたの。
でも、もう泣きますまい。
恋しいと思っていた
初恋のあなたに逢えたんですもの。
今年はきっときっと
嬉しい春を迎えますわ」
三、
都鳥さえ一羽じゃ飛ばぬ
むかし恋しい水の面(おも)
逢えば溶けます 涙の胸に
河岸(かし)の柳も春の雪よ
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